小さな幸せ

act.3


「・・・う〜・・・喉イテェ」

ぱかっと目を開け開口一番にそうぼやくとはっと手を口元に当てた。
声が出る!
すごく変な声ではあるが喋る事が出来る程にまで回復したようだ。
昨日よりも良くなっている事にやったぁ!と勢いよく起き上がると、まだ頭はくらっとした。一日で全快させたかったがそれはさすがに無理だったようである。
しかしデスクワークするくらいなら出来そうだとベッドから出ようとした時、ようやく自分の膝の上に落ちたタオルに気付く。そしてふと横を見るとベッドサイドの椅子に座り、壁にもたれながら眠るマスタングを見つけた。

「た、大佐!?なんでこんなとこにいるんですか??」

慌ててマスタングを揺すって起こすと昨日まで自分が起きていた時に羽織っていた上着をかける。

「あぁ、おはようハボック。・・・声が出てるな」

うんうん、と頷きながら満足そうに見つめてきた。
そして伸びをしながら立ち上がるとかけられた上着に袖を通した。

「・・・む、でかいな。・・・まぁいい。今日もまだ寝ていろよ、そうすれば明日には回復するだろう」
「え!大丈夫ですよ、ほら!」

手をひらひらさせてアピールするがマスタングはじとっとハボックを睨みつけると忌々しげに口を開く。

「確かにだいぶ下がってはきたが・・・まだ熱いぞお前」
「え?・・・どうして分か・・・まさかずっと起きて・・・か、看病とか・・・?」

しててくれたのだろうかと思って恐る恐るマスタングを見上げる。
マスタングはむっとして口を突き出すと不満たっぷりな口調で言った。

「少尉にはいらん世話だったようだな。では私は帰るとしよう」

折角袖を通した上着を脱ぎ捨てるとハボックへと投げつけた。

「わ、待って!あの、すいません!その・・・驚いて・・・」

そんな風に面倒を見てくれるタイプに思っていなかったハボックはつい本音を言いそうになってしどろもどろに謝った。
そんなハボックを呆れ顔で見るとマスタングは拗ねた様に言った。

「私だって看病くらい出来るぞ。現に良くなってきてるじゃないか」

偉そうにそう言うマスタングに(それって薬が効いてるとか思わないのかな・・・)とちょっと苦笑いしながら、仰るとおりで、と返した。
そんなハボックを見て少し寂しそうにすると、今度ははにかんだ様にうっすらと頬を赤くさせてポツリと呟いた。

「健康が取り柄のような奴が寝込んだら・・・恋人が寝込んだら・・・誰だって心配する」

それを珍しいものを見る様に驚くなんて失礼な奴だ!とぶつぶつ言うマスタングを見てハボックはみっともなく口をあけてしまった。
だって今この人は自分を恋人として心配し、看病してくれていたと自ら告白したのだ。
今までマスタングが付き合ってきた女性にこんな事をしたなんて話は聞いた事もないし想像も出来ない。だからこそすごくビックリした。
そう思うと腹の底からこれでもかと言うくらいの喜びが膨れ上がってきた。
この気持ちを表現したくて、でも言葉では言い尽くせなくて、足りなくて。

「大佐。・・・風邪が治ったら一番にキスさせてください」

さっきまで失礼な態度をとっていたハボックから急に直球が飛んできて思わずえ!っとハボックを疑視する。

「な!な!?」
「だって今したら風邪うつしちゃうかもしれないし・・・」
「ばか!変な事考えてないで早く治せ!!」

恋人、という言葉が凄く嬉しくて言った事だったのに、マスタングから邪険にされてしゅんとしたかと思えばすぐにあぁ!っと気付いたように満面の笑みになる。

「ですね!早く治さないと出来ませんからね♪」
「ち、違っ!!」
「大佐」
「な、なんだ!」
「好きですよ」
「う、うるさい!朝食を作ってくるからそれまで大人しく寝ていろ!!」
「朝から愛情たっぷりの手料理が食べれるなんて・・・幸せだな〜〜」

じーんとしながら幸せに浸るハボックを、マスタングは真っ赤になりながらわなわなと震えると勝手に言ってろ!と怒鳴りながら部屋を出て行った。
ハボックは荒々しく閉じられた扉を見つめると、こんな風邪ならひいてよかったとだらしなく笑った。

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「中」でロイハボみたくなって慌てたんですがこれで軌道を修正出来てるかな;

それにしてもどうしてもおまけを書きたくなるのはどうしてでしょうw・・・
暇つぶしに読んでくださると嬉しぃです^^;w