小さな幸せact.2
あの健康だけが取り柄の様な男が風邪で寝込むなどよほどなのだろう、と心配のぶり返したマスタングは早く様子を見に行きたかった。しかし夕方まであった会議にそれは阻まれてしまいハボックの元へと向かえたのは19時を回ってからようやくの事だった。 色々と食材と薬を調達するとハボックの住むアパートへとやってきた。 鍵がかかっていたのでノックをしたが呼べど待てども返事がない。 風邪が欠勤理由なのだから寝ているのだろうと思ったが帰るのはとにかく一度ハボックに会ってからだと思い、気が引けたが持っていたチョークで練成陣をドアに描くと鍵を練成し直してドアを開いた。 ハボックの家に入った事のなかったマスタングは手探りで中へと入っていくと、電気をつけて食材を机に置きくるりとあたりを見渡した。 ごちゃごちゃ物があるようでいてスッキリ見えるのは乱雑に物が置かれていないせいだろうか。 体力バカの部下にしてはキレイ好きなんだな、と思ってふとキッチンを見る。 床にキラキラと何かが落ちているのに気がつき近づいてみてさっと血の気が引いた。 無残に砕け散ったコップ。 よく見ると床はまだところどころ濡れているようだ。決下血痕と、少し離れた所に擦れた血の跡。 (まさか本当は風邪などではなく強盗に襲われてとか・・・!ハボックがやられるとは考えにくいが何かあったのかもしれん!) 気配を殺して静かに発火布をはめると、犯人がまだ家の中に潜んでいるかもしれないと気を引き締めて奥の部屋へと歩を進めた。 (・・・誰かいるのか?) 玄関の方から人の気配を感じて目を覚ました。 窓の外を見ればもうすっかり暗くなっており、何時間寝ていたのか考えたくないな、と思いながら気配を確かめようと起き上がった。 まだまだ体は重く、すばやく動けない。枕の下から拳銃を抜き取ると招かれざる客でない事を祈りながらそっと忍び足でドアへと近づいた。 そーっとドアの隙間から外を覗くと人の気配が微かにし、チラ、と何かが動いた。 誰何しようとしてから声が出ない事を思い出した。 ヒュー、と声にならなかった空気が音を出し、その瞬間相手がドアを蹴りつけて来た為ハボックは後ろへと派手に吹っ飛んだ。 起き上がろうとしたがクラクラしてもう頭を起こせなかった。 (やられる!) そう息を呑んだと同時に聞きなれた声が自分の名を呼んだ。 「ハボック!大丈夫か!!?」 「(・・・あれ・・・?大佐??)」 しっかりしろ!と抱きかかえられてハボックは混乱した。 (あれー?なんでここに大佐いるんだ?俺鍵開けっ放しで寝てたのかな) 以外にまともに働いている思考回路で全うな事を考える。 もう大丈夫だ、心配ないぞ!といいながらマスタングはハボックをベッドへと抱き上げた。 脱力している人間ほど重たい物はない。しかも訓練でもないのだから担ぐわけにもいかずマスタングはかなり頑張ってそれを成し遂げた。 (う・・・腰が・・・) 少し痛いと思ったが抜けなかっただけマシだろう。自分よりもタッパもウェイトもあるハボックを床から抱き上げたのだから。 ハボックはベッドへ降ろされてからようやくマスタングをまともに見上げた。その顔は緊張に彩られている。 ハボックの無事(?)を確認したマスタングは部屋のクローゼットをいきなり開けた。 ハボックは上司のいきなり取った行動にびっくりしたが、声が出ないのでとりあえずマスタングの動きを目で追っていた。 「ハボック、何があったんだ?」 ようやく家中の捜索と安全を確認し終えたマスタングが心配そうにハボックの傍らに跪いて聞いた。 口をパクパクさせながら空気の漏れる音を出すと悔しそうにハボックが顔を歪めた。 「・・・風邪で声が出ないのか?」 急に先ほどまでの真剣な顔がどこかに行って、なんとも気合の入らない顔になったマスタングに聞かれ、伝言聞いてないはずないのになぁと思いながらこくこくと出来るだけ頭を揺らさないように頷いた。 ハボックはマスタングの方を向くともどかし気に布団から手を出して今度は手話で話し始めた。 『ブレダに伝言頼んだんすけど聞いてなかったですか?どうしてここに??』 「お前・・・心配して来たに決まってるだろう!それよりなんだあのキッチンの惨状は!あれじゃぁ誰だって勘違いする!」 『?なんかありました?』 「コップが砕けてて血の跡まであったぞ!?」 『割っちゃいました』 てへっと笑いながら指先を見せて言うハボックに、安心した為かへにゃへにゃとその場に崩れる。 きっとさっきマスタングに吹っ飛ばされたのも、そこからすぐに起き上がれなかったのも、正真正銘・風邪が原因なんだろうと分かって本当にホッとしたのだ。 その反面自分の慌て具合に恥ずかしくなってきた。 「全く・・・もぅお前の心配などしてやらん」 『え?何?何で怒ってんすか???』 慌て始めるハボックの頭をくしゃくしゃと撫でるとマスタングは不安そうな瞳を覗き込んで睨み付けた。 「お前が寝込むと迷惑だ!!さっさと治せ!」 そうして背を向けると部屋から出て行ってしまった。 ハボックはそこら中に?を撒き散らしながら起き上がれずにいた。 小一時間もたっただろうか、ノックがされて部屋へとマスタングが入ってきた。ウトウトしていたハボックは、てっきり帰ったと思っていたのでその姿を認めると嬉しそうにゆっくりと笑った。 あんまり嬉しそうに笑うのでマスタングはかぁっと顔が赤くなるのを感じた。 「なんだ、寝てたんじゃないのか」 わざとらしく顔を背けてサイドテーブルに持ってきたトレーを置いた。暖かな湯気が立ち上る大き目の器と、その取り皿と思しきもの、それから水差しとコップが乗っているのを見てハボックは目をパチパチさせた。 マスタングはそれに気付いた様子もなくハボックの体を起こすのを手伝うと水の入ったコップを差し出す。 「ほら、とにかく水を飲め。汗をかくにしても水分が体になきゃ無理だ。どうせ一日寝ていたんだろう?」 あまりに手馴れたように世話を焼かれてハボックは唖然としていた。 顎でくい、と促されてコップに目を移す。からからに乾いた口の中を水が通り抜けていく。 そうしてコップを置くとまた手話で話し始めた。 『ありがとうございます・・・つかアンタ料理出来たんすか?』 「私を誰だと思っている。大抵の事はなんだって出来るぞ!」 なんだかすごく得意気に言い切ったマスタングに呆れ顔になる。 (じゃー俺に飯作れって言うのはただ面倒だからだったのか・・・) 「なんだ・・・。何か言いたげじゃないか。ハッキリ言いたまえ!」 イライラとハボックの頬を抓ってやるとバシバシと布団を叩きながら体を仰け反らせて抗議してきた。 ぱっと離してやると涙目になって頬に手を添えながら恨めしそうに睨んできた。クスッと笑いながらマスタングはハボックの手に今度は粥の入った器を押し付けた。 こぼさない様に手話とボディーランゲージで何とか意思疎通をする。 「とにかく。お粥を作ったからこれを食べて薬を飲め」 『はい、すっげーうまそうっすね。』 「味見はしてないが気にするな」 え、と言う顔で固まったハボックを尻目にマスタングはクローゼットを開けた。 「食ったら体を拭いてやる。着ているものも着替えろ。・・・なんだ?」 熱とは別に顔を赤くするハボックに、ふと気付いてニヤニヤ笑った。 「なんだ、何を想像している若者」 慌ててぶんぶんと首を振って拒否しているらしいハボックに対してちょっとした悪戯心が頭をもたげ、更ににんまりと笑った。 「何か・・・期待をしているのかな?」 意地の悪い笑みにハボックが首まで真っ赤になりながらぶんぶんと更に首を振った後でふっと壁側に倒れこんだ。 「おい!」 慌てて駆け寄ると粥の入った碗をこぼさない様に取り上げた。 そして力なく壁に凭れ掛かっている体を助け起こすと伝わってきた熱い体温に目を見開く。 頭を振ったから恐らく目を回してしまったのだろう。それほどまでに熱が高いと言う事だ。 ついとはいえ、からかった事を後悔した。 「すまん、冗談だ。・・・からかって悪かった」 ハボックは急に抱きしめられた事にまた慌てていたようだが今は大人しくなり、マスタングの腕にすがるように手が添えられている。 「ほら、早く食べて寝ろ」 ずっとそうしていたいとも思ったが、このままではハボックの肩が冷えてしまうと思い、名残惜しそうにそう言って体を離すとまた粥を渡した。 そんな彼に口だけでハボックがありがとうと言うと、マスタングはやわらかい笑みを返した。
うぉー。。。主観が分からなくなって凄い事に(゜д゜;) 大変!!読むの大変!!!・・・ですよね・・・ もっと国語の授業真面目に受けとけばよかったよ!>< と言う事でIt's challenge time!w 頑張って色々解読してくださぃorz(丸投げ逃亡常習犯・杜若より)←おぃ!;