甘い気持ちact.3
直前にたき付けられたからだろうか、予定より会議が早く終わった事に小さくホッとしながらホークアイに車を回すように伝えると身支度をする為に早足で執務室へと戻った。 「あ、大佐。お疲れ様で…って、大佐〜〜!?」 フュリーが丁度良い所に戻ってきてくれたと思いながら話しかけたそれをマスタングは手振りで後にしろとばかりに走り込んで部屋を横切っていった。 「…随分とお急ぎのようだな」 「…そうですね…急がなくても大丈夫だって言おうと思ったんですが…」 「まぁサプライズでいいんじゃないですか?」 マスタングが走ったおかげで2、3枚舞った書類を拾っていたブレダのお尻を不意に開けられたドアが押した。 「おわっ」 「…ごめんなさい、何してるの少尉」 思わずつんのめったブレダが勢いで破いてしまった書類に情けない顔をしながらがっくりと肩を落とした。 ファルマンが彼の肩をポン、と叩きながら代わりに返事をする。 「今大佐が戻られまして…思ったより早かったのですね、会議」 「そりゃ心配事が他にあったら是が非でも終わらせるわよ、あの人は」 軽く呆れ顔をしながらため息をつくとフュリーがコーヒーを入れてきた。 「丁度休憩の準備してたんですよね、ナイスタイミングってやつです」 人数分入れられたカップを見てホークアイが今度は安堵のため息を漏らした。 「そう、そう言う事ならよかったわ」 「えぇ、全くピンピンしてましたよ」 「フュリー曹長、二人には後で私が入れなおすわ」 「え、あ、はい」 そう言うとフュリーはマスタングの部屋に行こうとする動作をとめた。 それを聞き全て分かった顔をして、とばっちりを受けた事にうんざりとしながらコーヒーを飲むブレダにホークアイはくすくすとおかしそうに笑った。 (全く…そういう事かよ!) 今朝から機嫌が悪い事も、今こんなとばっちりを受けた事も全部ハボックにどこかで請求してやる!と密かに誓いを立てながらブレダはホークアイおススメのバレンタイン限定チョコレートを頬張った。 「大佐、お疲れ様です。」 「あぁ。今急いでるから後で… …ハボック??」 部屋に入るとそのままわき目も触れずコート掛けに直行したマスタングに声をかけたのは病院に居るはずのハボック本人だった。 来客用のソファに座ってぷかぷかとタバコをふかしていた彼は部屋の主、マスタングが入ってきたのを見受けると怪我をしていない方の手で敬礼をして上官を迎えたのだ。 「どこに行くんです? 今日は確かあの会議で仕事終わりじゃありませんでした?」 余りの忙しなさに急な仕事が入ったのかとハボックは残念そうにそう聞いた。 「あ。いや…別にその…」 驚いた顔のまましどろもどろになっているマスタングにハボックは書類をピラっと見せて申し訳なさそうに言った。 「これに判だけ押してもらえないですか? 今日の半休を申請する書類と医者からの診断書なんすけど。 俺明日休みの予定なので出してから帰ろうと思って」 マジマジとハボックを見ているマスタングに、大佐?ともう一度呼びかけると気の抜けたような態度でハボックの対面のソファにどっかと腰を落とした。 いや、脱力したと言うのが正しい表現かもしれない。 「お前…元気そうじゃないか」 「え?えぇ、撃たれたってもこんなのかすり傷です。 そりゃ痛いですが明日休みですしなんとも…」 「だってお前!意識を失くしたって言うからっ」 「や、それはビックリしましたから… 診断書にもありますがショック性の意識混濁らしいです、ホントすぐ気がつきましたし。 病院に搬送と言うより駆け込んだってのが事実ですし」 ぽりぽりと頭を掻きながら何とも気の抜ける報告をする部下に、更に気の抜けた顔でマスタングはそうか、とだけ返事をするとやる気なさそうに言った。 「そこにあるから自分で押したまえ」 「えぇっ?押してくださいよ、アンタの印鑑なんすから! そこ面倒臭がっちゃダメでしょ!?」 元気よく突っ込むハボックにイラっとしてマスタングも負けじと声を張り上げた。 「それだけ元気なら押すくらい問題ないだろぅ!」 「そういう問題じゃないです!」 「こっちは心配して早く会議を切り上げたんだから少しは休ませ…」 「え?」 「…え?」 沈黙が暫しの間その場を支配した。 それを破ったのはハボックだった。 「急いでたのって…」 「急いでない!!」 「心配だったから?」 「急いでないといってるだろぅ!」 墓穴を掘っただけに更なる墓穴だけは掘るまいと悔しそうに言い返す。 しかし心配した事を否定されなかった事にどうしても顔が緩んでしまったハボックは思わず目の前の背の低い机を無視してぎゅっとマスタングを抱きしめた。 「おぃ!あぶなっ!」 「うっ!…って〜〜」 お互いつんのめったのでハボックはつい普通に回してしまった腕に激痛が走った。更にマスタングがバランスを保つ為に手をついた場所が当に怪我をしている箇所だったのだ。 ハボックから抱きついたのだから自業自得かもしれないが、まだ手当てされたばかりの傷は分厚い軍服の上からでも分かるほど熱を持っていた。 ハッとしてすぐに手を離すと、微かに血が滲んでいた。 「馬鹿!何してる!!」 慌ててハボックの隣に回りこむとゆっくりとソファに座らせた。 自分も隣に座ろうとしたらぐいと腕を引かれてハボックの膝にかぶさるように手をついた。 そしてそのまま、今度こそと言わんばかりに頭を抱きかかえられた。 「ちょ!」 「すいません」 「…?ハボック?」 「心配かけちゃったでしょ?…すみませんでした」 「…こういう時は『ありがとう』と言うんだ」 「はい…。ありがとうございます」 これも。 そういって昨日投げつけられたタバコをポケットから出して見せた。 封を切られたそれは中身を見た事を示していた。 机の上の灰皿を見れば、そのタバコの吸殻が揉み消されていた。 「こっちの方がビックリしました。 こんなに可愛いプレゼント、予想できませんでしたから」 嬉しそうに笑いながら怪我を負った時の驚きと比べているハボックに思わずぷっと笑った。 「そんなものと比べるな」 「はは、そうですね」 マスタングがハボックの驚く顔を想像しながら買ったであろうタバコは有名なデザイナーが自分の愛する人の為にデザインしたタバコだった。 自分達の結婚10周年を記念して今年のバレンタインだけの為に、シン国出身であるデザイナーの経営している本店でのみ売り出された数量限定の超がつくレアものだ。 フィルターに刻まれ、くりぬかれたハートは覗くと奥に真っ赤に染められたフィルターが相手を愛する思いを表すかのごとく深く埋め込まれている。 ハボックはどうしても早く中身を見たくて病院の待合室封を切り、驚いて思わず唖然としていた所を近くにいた看護師に取り上げられた。 ハボックが必死にここでは吸わないから!と返してもらうとふたの開いたままだったそれは異常にタバコに詳しい通りがかりの医者の目に留まり、どれほど珍しい一品かを教えてもらったのだ。 だからハボックはどうしても一本目は彼を待っている時、彼を思いながら吸いたいと思って『書類』と言う尤もらしい理由を手に執務室で吸って待っていたのだ。 自分の愛する、とても大切な人のことを思いながら。 「大切に吸いますね」 「あぁ…。そうしてくれ。 それはもう二度と手に入らんからな。」 嬉しそうに満足げな笑みを浮かべるマスタングをこみ上げる愛おしい気持ちのままに笑みを返すとどちらともなく唇を寄せた。 「俺のあのチョコ。 あれにぴったりの酒を知り合いに教えてもらったんです。 今夜一緒に飲みましょうね」 息がかかる程の距離で心持頬を染めながらそう言うとさわり心地のいい黒髪を撫でながらいつかの様にチュッと額にキスをする。 ジワっと胸が熱くなる。 ハボックがどうして無理をしてまであの限定チョコを手に入れてくれたのかが分かってマスタングは嬉しくなった。 その気持ちのままにぎゅっと抱きつくと勢いよく身を翻した。 「よし、とっとと帰るぞ!書類を早く出して来い」 「その前に印鑑くださいって」 素直な態度を見せるマスタングに幸せそうなに苦笑するとお互いもぎ取っていた休日を堪能すべく部屋を後にした。
このタバコ、実はパッケージちょこっといじっただけで実在します。 まぁ作られた経緯みたいなのは杜若が勝手に妄想したので嘘です。信じないでくださいねw 本物のパッケージには「愛してる」って意味の言葉が刻まれているそうです。 なんでもフィルターに穴がある分キツイらしいです(自分吸えないので聞いた話ですが) でもすごく可愛かったので見せてくれた人に(自分吸えないって知ってる方だったのですが)ねだってみたら一箱くれました(強奪!?w) いえ、もらいましたから。ちゃんとw 資料にと撮影してこっそり友人に譲った事は内緒です。←言ってるジャン!今w せっかくいただいたのにしけらせてゴミにするのは失礼だなと思って。。。喜んで吸ってくれてましたw その写真を参考に一から描いてみたけどこゆのはやっぱり難しいですね・・・七夕で短冊に「画力が欲しい」って書けばよかった←もはや神頼みwww; そんなこんなでおまけはこの直後の二人です。お楽しみいただければ幸いっす^^